愛知県最低賃金の改定に関する異議の申出書

2012年8月17日

愛知労働局長 新宅 友穂 様

名古屋市熱田区沢下町9-7労働会館東館3F
愛知県労働組合総連合
議 長  榑松 佐一

 

 

 

愛知労働局一般公示第73号「愛知県最低賃金の改正決定に係わる愛知地方最低賃金審議会の意見に関する公示」が8月6日にありましたので、愛知県労働組合総連合は、以下のとおり異議の申し出をおこないます。

 

 

8月6日、愛知地方最低賃金審議会は愛知県の地域最低賃金の時間額を、これまでの750円に中央最低賃金審議会が示した目安「5円」に3円を上積みして758円とするとの答申をおこなった。今回の答申は、あらゆる点からみても評価できるものではなく、Aランクの都府県での改定状況を考慮したうえで、今回の答申を破棄し、少なくとも800円を上まわる引き上げ、1000円以上への引き上げの見通しを明らかにすることを求めるものである。

 

理由

 

1.働く者の生活実態を無視し、中賃「目安」にこだわった「答申」であること

(1)愛知地方最低賃金審議会(以下「愛知審議会」という。)の今年の答申は、「中賃目安」をよりどころにしておこなった答申である。中賃のAランク「5円」という目安そのものが、政府の「雇用戦略対話」合意を無視し、昨年と同様、東日本大震災を口実に引き上げ幅を抑制したものであり、「愛知審議会」はわずか「3円」を上積みしただけの低額の答申をおこなった。今回の中賃目安は、「生活保護との乖離」が11都道府県あることを明らかにした。生活保護との“逆転”そのものが異常である。ところが厚生労働省の生活保護と最低賃金の比較の方法は恣意的であるため、11都府県に限らず最低賃金の方が低いというのが実態である。そのため、AランクとBランクでの逆転現象がきている。Bランクの埼玉は今回の乖離分を一気に解消するとして12円の引き上げを答申した。この結果、Aの愛知が758円、Bの埼玉が771円となった。

(2)上記のような事態になるのは、最低賃金があまりに低く、また都道府県によって時間額が異なる制度になっているためである。最低賃金の額は、愛知の場合で1日8時間、月に22日働いても月額税込みで13万円程度にしかならない。愛知でも生活保護水準を下まわっているのは明らかである。最低賃金水準ではくらせないのは明らかであり、「雇用戦略対話」が示した「800円・平均で1000円」への引き上げを早急におこなうべきである。

 

2.労働者の声を無視した審議のあり方の抜本改正を

(1)愛労連は最低賃金による「生活体験」や「実態生計費」の調査結果等、現実の労働者の生活と最低賃金があまりにかけはなれていることを明らかにした資料を毎年のように提出し、まともな議論を求めてきた。また、非正規・時間給労働者の実態について審議会における「意見陳述」を求めてきた。ところが審議会はまともな審議をおこなおうとせず、意見陳述も労働者委員は「われわれが労働者の代表だから」という理由のみで拒否してきた。わずか5人の労働者委員がすべての労働者を代表できるはずがない。まして選出されている労働者委員は大部分が大企業労組出身であり、それらの労組は正規社員中心でパート・非正規労働者の実態を十分把握しているとはいいがたい。たとえ把握していたとしても「我々が代表」ということが「意見陳述」を拒否する理由にはならない。

労働者委員が「労働者を代表している」というのなら、昨年の審議会で使用者側委員(経営者協会)の「最低賃金を上げれば(企業が賃金を支払えず)失業者が増える」という意見に対し、なぜ反論しなかったのか。議事録を見る限りその痕跡はない。これに対して中小企業代表の使用者側委員が大企業の責任に言及したが、本来ならこうした意見に反論するのは労働者委員であるはずである。

(2)意見陳述は審議の妨げをするものではなく、むしろ審議での議論をゆたかにするものである。だからこそ宮城や高知、昨年は京都、大阪でも実施された。そして今年は東北・岩手でもおこなわれた。いわて生協労働組合のAさんがおこなった陳述のなかで「復興関連事業はほとんどが臨時で時給は760円。月の手取りが11万円程度。結婚や家の再建など、人生設計できなくて不安だという声があがっている」「沿岸南部には雇用支援として大企業が進出してきたが、最賃ぴったりの時給で募集している」などが指摘されている。こうした現実は意見陳述を実施してはじめてわかる実態である。全国的に広がりつつあるのは、それぞれの審議会が少しでもまともな議論を深め、納得のいく改定にむけて努力している結果である。

(3)愛労連は、あらためて審議会における意見陳述や専門部会の傍聴など、開かれた議論をおこなうよう、現在の運営のあり方の抜本的な改善を求めるものである。

 

3.現行の最低賃金は「生計費」ではなく「家計補助・被扶養者水準」である

(1)最低賃金の水準が「生計費」を考慮したものではなく、「家計補助水準」あるいは「被扶養者水準」にとどまったままであることを指摘してきた。だからこそ生活保護水準との逆転という、あってはならない事態がおきるのである。愛知では逆転はないというが厚生労働省の比較方法はきわめて恣意的である。「家計補助水準」というのは所得税法上の課税最低限度額103万円が基準になっていること、また被扶養者水準は130万円であり、これを常用労働者の労働時間2000時間の4分の3である1500時間で割れば700円前後であり、被扶養者の場合でも130万円で867円程度である。

(2)上記のように、現行の最低賃金が「家計補助」を基本にしているため、生活実態との乖離は大きい。愛労連が調査した「生計費」について7月20日提出の「意見」に詳細に記載しているので参照していただきたい。それによると25歳単身者・名古屋市内在住という前提で試算した結果、年額で268万8760円、月額22万3230円、時間額にして1285円が最低で、必要な額という結果になった。さらに今年2月に家計簿調査を実施したが、20~40歳代単身者の平均金額は消費支出が1か月19万163円(生計費額18万4184円)であり、時間額換算では1474円となった。要するに労働者が最低限の生活をするうえで、1285円以上(全国的にも1300円という調査結果がでている)が必要であることを明らかにしてきた。

(3)いま中央ないし地方最低賃金審議会に求められているのは、平成22年6月18日に閣議決定した最低賃金の引き上げに関する「雇用戦略対話」の政労使合意がかかげた目標(2020年までのできる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指す)にそって改訂をすすめることである。昨年のように震災を口実にした引き上げ抑制などは論外である。まして「支払い能力」論を根拠に抑制することは非常識である。いまや被災地はもちろん、全国的に経営者団体のなかでも「最低賃金引き上げと内需拡大は車の両輪」として、最低賃金の引き上げにむけた支持が広がっている。あわせて中小企業支援策のいっそうの拡充を求めるのは当然である。政府が実施した3事業(最低賃金引き上げに向けた中小企業相談支援事業、業種別団体助成金の支給、業務改善助成金の支給)は、申請時4月1日現在で700円以下の地域に限定するなど不十分であり、総合的な支援策が必要である。とくに下請二法の改善が重要になる。中小企業の経営を圧迫している最大の原因が親企業による単価切り下げであることから、公正に取引が実現できるために、罰則の強化などをふくむ改善が必要である。

(4)さらに最低賃金法に照らして時間額を改定するにはILO131号条約の趣旨(①労働者と家族に必要な国内の一般的賃金水準、生計費、社会保障給付、他の社会的集団の相対的生活水準、②経済的要素『経済発展上の要請、生産性水準並びに高水準の雇用を達成・維持する必要性を含む』を考慮して最低賃金を決定)をふまえて改善を早期におこなうべきである。

 

4.非正規労働者・低賃金労働者の増加は日本経済にとってマイナス

(1)最低賃金は、唯一法律で定める賃金である。通常、賃金は労働市場において労使の交渉によって決まるものであるが、非正規労働者・短時間労働者、また労働者性をもちながら「個人請負」とされている労働者などが急増しているなか、こうした労働者は交渉によって、みずからの賃金を決定することは不可能な状態にある。こうした労働者の最低限度の生活を維持するために最低賃金法はあり、その趣旨にもとづいて額を決めることになっている。

(2)年収200万円以下の労働者が1000万人になろうとしている。非正規労働者・短時間労働者は、ひとつの仕事で生活できる賃金が得られないため、ダブルワーク・トリプルワークをしている人も多い。非正規労働者・低賃金労働者の急増は消費をいっそう萎縮させ、デフレ経済に拍車をかけることになる。経済を内需拡大型に転換するうえでも最低賃金の引き上げによって、消費拡大をはかることが欠かせない。同時にそれは税収増にも結びつき、景気回復の大きな基点になることはまちがいない。こうした状況も含めて、最低賃金の役割を明確にした改定が求められている。

 

5.労働者が納得のいく改定を

今回の答申は、とうてい納得のいかない水準であることは多くの労働者の〝思い〟である。愛知労働局長が最終的に決定することになっているが、労働局長の判断においても上記の内容をふまえた決定を要請するものである。

愛労連は、別途中小企業の支援策の実現を政府にも要求しているが、「震災」や「中小企業の経営危機」を理由に抑制することは、最低賃金の本来の役割を否定するものである。法の趣旨と労働者の実態という視点から最低賃金の改定について、あらためて要請するものである。

 

以上

 

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