過去最高の額・率でも、県内労働者の生活実態を顧みない目安額通りの答申に抗議する
- 愛知地方最低賃金審議会は8月21日、2025年度の愛知県の最低賃金を現在の1,077円から63円引き上げ、1,140円(5.8%)とする答申を愛知労働局長に行った。(効力発生10月18日)
- 今週になって異例の動きがあった。19日、大村知事は赤澤経済再生担当(賃金向上担当)大臣の申し出を受け、「最賃引上げに関する意見交換」を行った。赤澤大臣は「都市部においては最低賃金近傍で働く労働者の絶対数が多く、引上げによる効果は大きい」「愛知県には全国の最低賃金の牽引役になってもらいたい」「目安額を超えて引上げした場合には、国の補助金などによる重点的な支援など、最低賃金引上げに対応する中小企業・小規模事業者へ大胆な後押しを検討している」と説明した。この意見交換を受けて20日、大村知事が記者会見をした。「最低賃金は生活給を保証する側面があることから、昨今の物価上昇を鑑みると適正な水準に引き上げがあって然るべき」「気持ちとしては目安を超える引上げ」「目安額以上での決着が望ましい」と考えを述べた。記者の質問に対し、知事は「今日中に審議会長に届ける」と回答した。愛知県知事が最低賃金の引き上げについて意見をするのは初めてのことで、大臣の要請や県民の生活が困窮していることが背景にある。愛労連としても3月24日に、県民生活に責任を持つ知事として大幅引き上げに向けたとりくみを要請したところであり、知事のこうした行動を歓迎する。
それにもかかわらず、21日に開催された審議会では、会長からも労働局からも、知事のコメントに対する「受け止め」「見解」「説明」等の発言がいっさいなかったことは、県民にも県内の事業者に対しても不誠実であると指摘せざるを得ない。 - 愛労連は、昨年10月1日に実施した新しい最賃額(1,077円)を周知する宣伝を期に、「今すぐ1,500円」の実現を求める宣伝を繰り返し行ってきた。個人署名(9,300筆)・オンライン署名(4,997筆)・要請書の提出(7/4)、県知事要請と記者会見(3/24)、大学前宣伝(6/19:愛知学院前)、名古屋駅前宣伝(4/9、7/14)、意見書の過去最高提出(7/31:59通)などにとりくんできた。
全国の運動も活発で、世論形成が図られ、物価高騰・実質賃金低下のなか、政府が「2020年代に全国平均1,500円」の目標をかかげた。県知事からの要請もあちこちで行われ、目安額を上回る答申が相次いでいる。鳥取9円、島根8円、石川7円、福井6円、茨城6円、Aランクの千葉でも1円など、21地方中16地方(7割超)で目安を上回る答申が行われるなか、愛知の目安どおりという答申を、労働者・県民は受け入れることはできない。 - 7月31日の帝国データバンクの発表によれば、8月の飲食料品値上げは1,010品目、10月は今年4月以来となる3千品目超が見込まれ、今年1月以降4月(4,225品目)に次ぐ値上げラッシュとなる。また、7月4日発表された2024年国民生活基礎調査では、「生活が苦しい」とする回答が約6割を占め、米をはじめとした食料品の値上げが家計を圧迫するなか、過去最高の額・率と言えども1,140円では、月額にして20万円にとどかず(1,140円×8時間×21日)、生活改善にはほど遠いことも明らかである。
- 最低賃金法第9条には「労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定めなければならない」とあるが、昨年まで愛知の審議会に事務局から提出された資料は、①「生計費」2点、②「賃金」4点、③「支払い能力」12点であった。
愛労連は、最低賃金法の目的(賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより…)からして生計費資料が軽視されていることを指摘した。その結果、愛労連が実施した「最低生計費試算調査」(20代:単身者)が事務局提出の資料として初めて採用されたことは評価に値する。また、労働者委員から「医療・福祉分野で働く人の状況」について資料が提出されたことも歓迎する。
一方、資料の説明時間を設けるよう要請したが(意見陳述を含め)、受け入れられなかったことは今後の課題である。審議会では「生計費」について消費者物価指数だけを対象とし、「生活実態」をふまえた審議がなされていない。これを踏まえた審議を行うには、多くの地方審議会で実施されている意見陳述が必要である。それにも関わらず、明確な理由もなく意見陳述を実施しない愛知審議会の閉鎖的な姿勢は労働者・県民の理解を得られない。
また、専門部会途中に「長時間休会」して「非公開の二者協議(議事録無し)」を行うという問題は残ったままであり、県民に開かれた審議を行うべきである。 - 愛労連は7月4日に「愛知県最低賃金を1,500円に、中小企業支援と審議の活性化・公開を求める要請」を審議会と労働局に行った。審議の「民主的運営」「活性化」を期待し、4回の専門部会、3回の本審(特賃審議除く)を傍聴し、委員全員の発言を注視したが、公労使各1名の委員以外は、ほとんど発言がなく、皆無の委員が多数だった。労働者委員からは労働者の生活実態の実際について発言を期待したが、これもなかった。
委員には多額の手当が支給されており、それぞれが各分野を代表して選任されているのであり、全委員から発言があって然るべきではないか。それが県民に付託された委員の役割だ。 - 愛労連は、ただちに異議書の提出(異議審9月8日)を県内の労働者・労働組合にひろく呼びかけるとともに、大村県知事にも改めて審議会に意見するよう求める。労働者県民の生活を改善するために、「最低賃金今すぐ1,500円、めざせ2,000円」の実現、全国一律最低賃金制度の実現のためにいっそう奮闘することを表明する。
2025年8月21日
愛労連事務局長 竹内 創
(愛知県労働組合総連合)