愛労委を労働者に頼りにされる労働委員会として再生するため、第48期愛知県労働委員会委員の公明正大な任命を求める要請

 貴職におかれましては、日頃より労働者の権利とくらしの向上のためご尽力されていることに敬意を表します。

 第47期愛知県労働委員会(以下、愛労委)の委員は11月30日をもって任期満了を迎え、知事は第48期委員を任命されます。現在の労働委員会には様々な問題があり、不当労働行為に苦しむ労働者・労働組合の救済機関としての信頼を失墜させています。知事が今回の任命にあたり、愛知県労働委員会を労働者・労働組合に頼りにされる救済機関として再生するため、下記の内容を踏まえて公明正大な任命をするよう要請します。

1.労働者委員の連合愛知所属者以外を排除する偏向任命を改め、公明正大な任命を行うこと。

①.愛知県は1989年の労働戦線再編以来、18期36年にわたって連合愛知に属さない候補者を排除し続けてきました。この不当な任命を争った訴訟で、1999年5月の名古屋地裁判決は、「労働組合運動において運動方針を異とする潮流・系統が存在する以上、労働者委員構成においても多様性を有することが望ましい」「すみやかに系統を反映した選任にすべき」と知事に是正を求めました。全国ではこの判決がいかされ、中労委と11都道府県(北海道・宮城・長野・東京・埼玉・千葉・神奈川・京都・大阪・和歌山・高知)で非連合の委員が選任されています。それは、組織の大小にとらわれず、幅広い系統から選任をするという各知事の民主的な判断によるものです。
 大村知事は就任から14年経ちましたが、公平中立さを欠く任命を一向に改めず、愛労委は労働者・労働組合の救済機関としての機能を損なっていると指摘せざるを得ません。

②.また、連合愛知は労使協調を基調とする労働組合であり、任命された労働者委員に団体交渉拒否や労働組合つぶしと正面から対峙した経験がないのではないでしょうか。委員の選任にあたっては、本人や推薦組合との面接や聞き取りはなく、判断材料は「履歴書」と「推薦書」しかなく候補者が不当労働行為事件とどう関係してきたかもわかりません。これまでも、参与する労働者委員の言動・行動から、不当労働行為に苦しむ労働者や労働組合が頼りにできないことが繰り返されてきました。労働者委員は、使用者による不当労働行為にさらされる労働者・労働組合の苦しみや悲しみ、怒りに寄り添い、事件の解決に参与できる者でなければなりません。

2.公益委員に専門家である労働法学者や労働法に対する知見の深い弁護士を入れること。

(1)二度と労働委員会委員が不当労働行為に関与するようなことを起こさないために

①.2022年春、南医療生活協同組合(以下、生協)が、南医療生協労働組合(以下、労組)に関する「南医療生協労働組合ガイダンスのご案内」(以下、「ご案内」)なる文書を配付しました。そこには「(ガイダンスに)参加されない場合、その時間は別の場所で休憩をお願いします」と記されていました。これは、ガイダンスヘの参加意思の有無を明らかにさせる目的を持った不当な指示です。また、「労働組合へ加入するかしないかは自己責任」と書かれており、新入職員の労組加入を抑制し労組の弱体化を狙った不当労働行為そのものでした。
 これに対して労組は、直ちに生協に対して抗議し団体交渉で追及しましたが、組合が申し立てた事件の和解協議途中に愛労委の助言に基づいて作成・配付したものであり問題ないと開き直り、謝罪に応じませんでした。「ご案内」の作成に関わる愛労委の関与が明らかになったため、愛労委に対して、事実確認を行ったところ、愛労委も会長名の文書でこれを認めました。不当労働行為から労働者を救済する機関が不当労働行為に関与するまさに前代未聞の事態です。

②.不当労働行為文書作成に関与する経過は、2021年11月26日に実施された第5回和解協議期日において、生協側からガイダンスに先立ち配付する「ご案内」の原案が使用者側参与委員を通じて示され、それに対し審査委員および両参与委員が関わって「労働組合へ加入するかしないかは自己責任」との文言に修正するよう意見されたことが7月29日付け会長名での文書で明らかにされています。生協作成の原案では「本案内は、南医療生協労働組合への加入をお勧めする趣旨ではありません」との文言であったことも明らかになっており、それが不当であることは論じるまでもありません。
 さらに、同会長名の文書によれば、「ご案内」作成への関与は「労働委員会としての正式な回答ではなく、委員の個人的なアドバイス」とされましたが、和解協議が進められている最中に審査委員および両参与委員が関与して私見にもとづく個人的なアドバイスをするとは、審査機関としての役割や職権を逸脱したものです。

③.そもそも労働組合への加入は憲法28条に定められた権利であって、「自己責任」ではありません。労働委員会は、憲法に定められた労働者の団結権を擁護し、使用者による不当労働行為から労働者・労働組合を救済する役割を持っています。しかしこの事件は、「ご案内」の不当労働行為性に誰一人気がつかず、不当労働行為に関与する事態となりました。こうした労働委員会委員としての能力を欠く委員を任命した知事の責任は重大です。

(2)審査委員としての能力や資質が問われている

①.2018年10月25日に棄却された第一交通不当労働行為事件では、愛労委は第一交通労働組合が申し立てた不当労働行為の各事実を外形的事実としては認めながら、組合側と会社側の主張を並列し、不当労働行為の疎明がないものとして退けました。不当労働行為の救済申立に対して、使用者側がこれを否定し争うのは当たり前であり、準司法機関として審査判定するのであれば、対立する証拠を検討して、何故、一方の証拠が信用できないかを理由付けなければ、判定の結果についての信頼性は得られません。この愛労委決定には、労働組合側の証拠が信用できないと判断した根拠が全く示されませんでした。とくに、会社側の脱退勧奨については、脱退工作を受けた本人や工作を行った者の録音テープがあり、また、組合委員長に対する誹謗中傷の攻撃に会社側が関与していることも録音テープから明らかであるにもかかわらず、決定はこれらの明白な証拠を何も検討していません。さらに、会社側の脱退勧奨を受けて組合を脱退したり、会社の働きかけで訴えを取り下げた第三者の陳述書についても、その信用性について一切言及することなく疎明がないと判断したことや、労働側の証人申請にもかかわらず、会社代表者を証人として採用しないでおきながら、代表者自身が関わった行為について労働組合側の主張を退けるなど、最低限の法的理解もなく、およそ公平中立な立場で判断されたものとは言えない決定でした。
 当該労組は、この事件の調査中に起こった組合委員長や書記長の不当解雇について裁判でも争い、2021年2月18日、名古屋高等裁判所(民事第1部)は、不当労働行為の事実について認め、書記長の雇用契約上の地位確認とともに未払い賃金と慰謝料の支払いを命ずる判決を言い渡しました。これに対し会社側は上告しましたが、最高裁第三小法廷は、上告不受理の決定をし、会社による不当労働行為が確定しました。中央労働委員会では、最高裁の判断を踏まえた調査が進められ、会社は和解に応じざるを得ず組合の勝利和解となりました。愛労委が迅速に調査を進め、不当労働行為に苦しむ労働者・労働組合を救済できなかったことは、厳に受け止めなければなりません。

②.この他にも、名古屋ふれあいユニオンの事件では、申立後1年半も調査を繰り返した後に「却下」とされましたが、中労委では却下を取消し、わざわざ「申立自体は不当でないと理由で明記」されました。愛知私教連の事件では、審査にあたった公益委員が結審後に担当事務局に、労働組合勝利の命令を起案するように指示したにもかかわらず事務局が拒絶。委員は任期途中にもかかわらず差し替えとされ、退任挨拶の中で「私が退任すること自体が不当労働行為」とその不当性を強調されました。
 こうしたことが続く中で、数々の不当労働行為とたたかってきた労働組合や弁護士の中には、愛労委が頼りにならないからと救済を申し立てず裁判に訴えることが少なくなく、もはやその信頼を失っています。

③.労働委員会は、簡易迅速に労働者を救済する機関であり、不当労働行為が疑わしい事件については、積極的に判断して早急に救済命令を出すのが本来の姿です。愛労委が不当労働行為を認定せず、裁判所や中労委によって認定された第一交通事件では、「愛労委は労働者側の主張について、ほとんど判断していない」と中労委委員からも批判されていました。こうした背景には、専門家である労働法学者が一人もいないことがあると指摘せざるをえません。

④.弁護士は、労働問題を専門にしてきた弁護士を公益委員として任命するべきです。元会長の弁護士が退任時に「公益委員に選任されるまで労働法の本を読んだことがない」と皮肉の挨拶をされることまでありました。弁護士として労使問題に精通し、かつ労使にとって中立的な経験・経歴を持つ者を選任できるのですか。いま愛労委に求められるのは、労働問題に深い知見を持つ者であり、労働問題における代理人としての豊富な経験です。そうであれば、労働弁護・経営法曹の両分野から優秀な者を任命すべきです。

3.公労使すべての委員で女性を4割以上(各3人以上)にし、5割をめざすこと。

①.愛知県における男女の賃金格差は全国で5番目に大きく、管理職における女性の割合が全国最下位です。この解消に向けて愛知県はあらゆる分野で全力をあげなければなりません。労働分野でもジェンダー平等の実現と男女共同参画が強く求められており、私たちは労働者委員の女性比率を高める必要性を再三指摘してきました。それにもかかわらず愛労委労働者委員には女性が7人中2人しか選任されておらず、機会を逃さず3人以上の女性委員を選任すべきです。

4.労働者委員の構成を労働者の実態を反映したものにすること。

(1)非正規雇用労働者の委員を任命すること

 非正規雇用労働者が増加し、労働者全体に占める割合は35%を上回っていますが、現在の労働者委員に非正規雇用労働者は1人もおらず労働者の雇用実態から見れば極めて異常であり、直ちに改善が必要です。

(2)医療・福祉分野の委員を任命すること

 愛知県の就業状況によれば、産業別人口で「医療・福祉」は「製造業」「卸売業、小売業」に次ぐ規模であり増加しています。労働者構成に即した任命が必要です。とりわけ「医療・福祉」では、ワンマン経営による労働事件が多くあり、この分野の職場実態に精通した労働者委員が必要です。

以上

2025年11月10日

愛知県労働組合総連合
愛知国民春闘共闘委員会
議 長  西尾美沙子

名古屋ふれあいユニオン
運営委員長 鶴丸周一郎

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